僕たちは試されている

いまがいつなのか

ここがどこなのか

誰も知らない 知る術はない

 


絵本のはじめ

無表情の暖色ページを

息を飲みこみ見つめている

 


疾走の前に必要な距離がある

 

プロローグは必ずついてくる

 


いまはいつか あの頃になり


未来はいつか いまになる

 

 

夢なら幻想になって消えていくが


未来と呼べば近くになる

 


理想なら泡になってはじけるが


将来と呼べばがんばれる

 

 

言葉は生きている

 


言葉は動いている

 


僕らは動いている

 


立ち止まって見つめないこと


そして動いた軌跡だけを見ておけばいい

 

 

人はいつも試されている

 


過去に試されている

 


未来に試されている

 

 

 

 

 

 

 

 

美しいものを美しいと

他者を攻めることで自己を確認したい人がいる

きっとそういったひとつひとつに気付かずに

大人になってしまったのだ

 

美しいものを美しいと思う

 

朝日を浴びて

夕陽に想い

夜を閉じる

 


人はだれでも許せない昨日を憶えている

心の中にセーブされてると思い込んでいる

 

虚ろな図書館にふらふらと出かけて行って

やっぱり同じ書棚に手を伸ばしてしまうから

いつも同じ悲しみを持ってる気になってる

 

がらんどうの心に

コップ一杯の愛を汲みたい

ただそれだけなんだろうに

コントロール

紙芝居のクライマックスで

 

成敗される鬼たち

 

振り回している金棒は

 

弱さのサイズを表している

 

 

 

群衆が買い求めるのは

 

品種改良で頬を染めた果実

 

噛みしめて飲み込むあいだ

 

種が無いことに気付くことはない

 

 

 

もうブラウン管はすっかり改造されていて

 

モノクロ画質が

 

さもカラーであるかのように胸を張っている

 

 

 

記者がペン先に付けたいインクも指定され

 

気付かぬうちに太字にされて

 

印刷されている

 

 

 

人は視覚で読み取り

 

フレーズで学んでしまう

 

 

 

事実と現実と真実は同じ箱の中に入れられ

 

福引きの確率で

 

手にしなければならない

 

 

 


これから流れてくる言葉が

 

白くても黒くても

 

もうそれすらコントロールされたあとだろう

 

 

 

夏のある日から

 

「おはよう」で起きて

 

「おやすみ」で眠れるようになった

 

 

 

直感は僕を裏切らず

 

コントロールされることもない

 

 

 


そろそろ気付いてもいいだろう

 

すべては

 

僕のポケット

大切なものを半ズボンに込めて

ポケットを気にしていたあの頃

なにを大切にしていたのか

 

割り切れる算数が好きだった

いまは難しい問いかけの前で

動けなくなってしまった

 


僕はいま何年生なんだろう?

 


いつも半袖でいたかった

 


靴飛ばしで空を測って

夢を描いていた

 

あの時の涙が

いまを彩る絵の具になった

 

どんな空しさも

アイスクリームで消せたあの日

 

次の授業へ黒板をリセットするように

僕らはあの頃を消してきた

 

長袖とセーターと

防弾チョッキを重ね着にして

走れなくなった

 

金網ばりの公園で

額縁の中の自由と

窓枠から見えた開放に

等式のような答えを与えられた

 


たいていの問いかけは

解答をめくって写せばいい

そうみんなが教えてくれる

 

僕には

あの頃飛ばしたシューズが

空に浮かぶあいだに見ていた未来がある

 

「まだ子ども」と「もう大人」は

グラデーションでつながってるんだ

 

ネガに押し込まれた歴史を

持ち歩くほど大きくはないのさ

 

僕のポケットは

 

 

 

 

 

 

渦巻の銀河

星は永久に配列されていて

宇宙の螺旋階段を上がっていきます


たとえばそれは深海を泳ぐ

魚の群れたちを想像してみましょう


形状が繰り返すうちに

安定した姿を保てなくなり

巻き込みのジレンマが起こります

 

かかったストレスを元の形状に戻すべく

渦を創り出しては

やすらぎを求めていくのです

 

小さな渦はまるで

欲望を太らせていく人間の性のように

大きな渦へと成長していきます

そして

膨大なエネルギーを秘めます

 


渋滞のテールランプの感情のように

一定のアイドリングが続いていくと

踏み込む強さが与えられます


強さはエネルギーを生みます

エネルギーは保存されていきます

簡単には消えていきません


止まっていたい強さより

動かしたい強さが勝ったときに

必ず動いていきます

 

これを


渦巻の銀河から学べる


物事の取り組み方だと覚えておくとよいでしょう

ライフ イズ ビューティフル

視力を失えば 聞こえるようになる

歩くなら 景色がよく見えて

静けさは 呼吸を感じさせる

 

 


"ライフイズ ビューティフル"


そこはコウモリがお似合いの12階の建物

廃墟ではない

子どもの時に肝試しをしたこともある

昭和の遺産のような集合住宅は

いろはにほへと に名付けられて

最も背の高いこのマンションには


ロ-16


と書かれている

 

まさか自分がここに住むなんて

いっときの仮住まいにしてもだ

仕事帰りにその部屋に向かう

 

エレベーターホールに歩く途中で

どこかで見たような男に会った

前世で交わしたのかはわからないが

敵ではないぞと直感が伝えてくれる

 

 


気味の悪いエレベーターで9Fのボタンを押す

スリラー映画の雰囲気で箱の中にふたり

 

僕は会話をしながら不安を紛らわすように

上下左右を見回していた

 

やっと ドアが開いた

渡り廊下に行くには冷たい扉があった

これから強制収容所に入るようだ

 


中年の女性清掃員が三角頭巾で

仕事に集中している

素っ気がないのは性格ではなく忙しさだろう


企業ブースの表情で部屋が並ぶ

部屋と部屋の仕切りが分かりずらい


居住人の吐息も感じる

横目で生活感が見えている

暗い中でロックな趣味の部屋がよく見える


そんな部屋の間を潜り抜けるように

僕の家族の号室を探した

 

「こんなとこに引っ越しをさせてしまったなんて」

 

後悔と不安に駆り立てられながらも

待っているその引き戸を開けた


部屋はやはり暗かった

ひとつの窓があることを木漏れ日で確認すると

家族たちが2段ベッドで寝ているのを見つけた


「おかえりなさい」と妻が言う

小さな男の子たちは寝ているところに

僕の気配にうっすら目を開ける


僕は

「やっぱ引っ越そうか?」

と尋ねる


妻は

「別に大丈夫よ ここで」

と答える


ワンルームで3万円ってとこだ

僕は家賃をケチった自分を責めた

 

ひとつしかないの窓の 障子を開けた


僕の好きな東の方角だった


青い空と緑の山々が見える


ベースボールを愉しむ人たちが野球場にいる


今日は日曜日だったのか


天気は笑顔だ


爽やかな午後だ


「綺麗な景色だね!」

と僕が言う

家族が起き出してもう僕の横にいる

妻は

「でしょう」

と得意げに言う

 

と部屋の玄関扉が開いた

男の子が4人

4年生ぐらいだと思う

近くの号室に住んでいるのだろう

彼らはさっきまで息子と遊んでくれていたらしい

息子は嬉しそうな顔をしているし

彼らは僕を見ると押し黙ったのだから


彼らと仲良くなっていこう

そう思って僕の方から彼らに近付いた

新生活はこうして始まった

 

 

目が醒める

 

「夢だったのか」

 

 

不気味な建物の高層階

ワンルームに射し込む青空の窓

楽しそうな子どもたち

男の子たち


「ライフ イズ ビューティフル」


昨晩の名作映画を思い出し

僕は

その景色をゆっくりしまい込んだ

アドラーに学ぶ

夢は
醒める前に楽しまなくてはならない
そこに帰ることはできない

覚めた時は眩しいが
光から逃げてはならない

僕は 僕の夜を守って
僕は 僕の朝を迎えるんだ

想像に支配されてはならない
道より先にハンドルをきれない

万物に優劣はない
座標がみな違うのだ

科学より歴史を学べ
公式よりも言葉を使え

悲しみはすぐに手放して
僕はアドラーに学ぶのだ

流れ星を待つよりも
新しい朝のほうが簡単だ