“傷み”

大人になってからの旅路は
幼い頃に奪われたものを
いつも取り返そうとしている

 

あの人もこの人も
どこかに埋めてしまった悔しさを
いまはもう思い出せないでいる

 

「ごめんな」と言われたい


「ごめんな」ではゆるせない

 

大人時代の3年間の経験は
二歳児が3分間でするという

 

取り出したかった刃物を
無理に内ポケットにしまいこんだ


先端が体の動きをいまだに制限している

 

 


童話の中のライオンが
街の中で暴れていた


人々はそれを始末しろと駆り立てる

 

ひとりの少女は気付いていた

足の裏に刺さった薔薇のトゲに

 

保安官の向けた銃口は照準を合わせた


引き金には指がかかっている


理由さえあれば撃ってみたい男だ

 

少女はそれを制止するように
まるでゴールキーパーのポーズで
ライオンの前に立った

 

正義は勝つ
が勝利は真理の中で存在している


いまだかつて邪は正に勝たず
が邪は存在することをいまだにやめない

 

あのとき埋めてしまった悔しさが
あのとき隠してしまった刃物の痛みが
いまでもあいつを傷付けている

 

あの銃口の本当の意味は
自分に向け続けた傷みであることを


あいつはまだ知らないでいる