"朝の太陽"

僕がにぎりしめたハンドルは

もうしばらく離したことがない

 

乗客は大勢だ

いろんな景色を見てきたし

竜が飛び出しそうな嵐も経験してきた

 

これだけ大勢なのだから ハンドルではなく

舵と呼んだほうが正しいだろうか

 

はじめはよかったんだ

ボートにはペースが存在していた

 

各自の食糧も充分に積んでいたし

ときどき浅瀬に碇を降ろして

クロールして楽しんだものさ

カクレクマノミを捕まえたこともあったね

 

 

けど

いまは違う

 

ある人は朝食が口に合わないと言い

 

 

ある人は船酔いをしたと言う

 

 

ある人は途中で降りたいと訴える

 

そんなはずはないんだ

僕らの理想のクルーズは

この航海そのものだったんだはずなんだ

 

速度はね

風を受けながらだから

正確なことはお伝えできない

 

ひとりのために

スピードを上げることもない

 

だからと言って

黙って目的地まで乗ってくれとは言わない

 

この限りある時間と空間の中で

チェスやバーを存分に楽しんでほしいんだ

気の合う仲間を呼びかけ合って

 

 

ある客は声を荒げて

コンパスや航海図を見せろと言うが

 

はじめて目にした荒波やうねりに

不安をおぼえてしまったに違いない

 

だって僕らは、はじめからね

ずっと朝の太陽を向いていて

ハンドルをにぎりしめているのだから