ライフ イズ ビューティフル

視力を失えば 聞こえるようになる

歩くなら 景色がよく見えて

静けさは 呼吸を感じさせる

 

 


"ライフイズ ビューティフル"


そこはコウモリがお似合いの12階の建物

廃墟ではない

子どもの時に肝試しをしたこともある

昭和の遺産のような集合住宅は

いろはにほへと に名付けられて

最も背の高いこのマンションには


ロ-16


と書かれている

 

まさか自分がここに住むなんて

いっときの仮住まいにしてもだ

仕事帰りにその部屋に向かう

 

エレベーターホールに歩く途中で

どこかで見たような男に会った

前世で交わしたのかはわからないが

敵ではないぞと直感が伝えてくれる

 

 


気味の悪いエレベーターで9Fのボタンを押す

スリラー映画の雰囲気で箱の中にふたり

 

僕は会話をしながら不安を紛らわすように

上下左右を見回していた

 

やっと ドアが開いた

渡り廊下に行くには冷たい扉があった

これから強制収容所に入るようだ

 


中年の女性清掃員が三角頭巾で

仕事に集中している

素っ気がないのは性格ではなく忙しさだろう


企業ブースの表情で部屋が並ぶ

部屋と部屋の仕切りが分かりずらい


居住人の吐息も感じる

横目で生活感が見えている

暗い中でロックな趣味の部屋がよく見える


そんな部屋の間を潜り抜けるように

僕の家族の号室を探した

 

「こんなとこに引っ越しをさせてしまったなんて」

 

後悔と不安に駆り立てられながらも

待っているその引き戸を開けた


部屋はやはり暗かった

ひとつの窓があることを木漏れ日で確認すると

家族たちが2段ベッドで寝ているのを見つけた


「おかえりなさい」と妻が言う

小さな男の子たちは寝ているところに

僕の気配にうっすら目を開ける


僕は

「やっぱ引っ越そうか?」

と尋ねる


妻は

「別に大丈夫よ ここで」

と答える


ワンルームで3万円ってとこだ

僕は家賃をケチった自分を責めた

 

ひとつしかないの窓の 障子を開けた


僕の好きな東の方角だった


青い空と緑の山々が見える


ベースボールを愉しむ人たちが野球場にいる


今日は日曜日だったのか


天気は笑顔だ


爽やかな午後だ


「綺麗な景色だね!」

と僕が言う

家族が起き出してもう僕の横にいる

妻は

「でしょう」

と得意げに言う

 

と部屋の玄関扉が開いた

男の子が4人

4年生ぐらいだと思う

近くの号室に住んでいるのだろう

彼らはさっきまで息子と遊んでくれていたらしい

息子は嬉しそうな顔をしているし

彼らは僕を見ると押し黙ったのだから


彼らと仲良くなっていこう

そう思って僕の方から彼らに近付いた

新生活はこうして始まった

 

 

目が醒める

 

「夢だったのか」

 

 

不気味な建物の高層階

ワンルームに射し込む青空の窓

楽しそうな子どもたち

男の子たち


「ライフ イズ ビューティフル」


昨晩の名作映画を思い出し

僕は

その景色をゆっくりしまい込んだ