"朝の太陽"

僕がにぎりしめたハンドルは

もうしばらく離したことがない

 

乗客は大勢だ

いろんな景色を見てきたし

竜が飛び出しそうな嵐も経験してきた

 

これだけ大勢なのだから ハンドルではなく

舵と呼んだほうが正しいだろうか

 

はじめはよかったんだ

ボートにはペースが存在していた

 

各自の食糧も充分に積んでいたし

ときどき浅瀬に碇を降ろして

クロールして楽しんだものさ

カクレクマノミを捕まえたこともあったね

 

 

けど

いまは違う

 

ある人は朝食が口に合わないと言い

 

 

ある人は船酔いをしたと言う

 

 

ある人は途中で降りたいと訴える

 

そんなはずはないんだ

僕らの理想のクルーズは

この航海そのものだったんだはずなんだ

 

速度はね

風を受けながらだから

正確なことはお伝えできない

 

ひとりのために

スピードを上げることもない

 

だからと言って

黙って目的地まで乗ってくれとは言わない

 

この限りある時間と空間の中で

チェスやバーを存分に楽しんでほしいんだ

気の合う仲間を呼びかけ合って

 

 

ある客は声を荒げて

コンパスや航海図を見せろと言うが

 

はじめて目にした荒波やうねりに

不安をおぼえてしまったに違いない

 

だって僕らは、はじめからね

ずっと朝の太陽を向いていて

ハンドルをにぎりしめているのだから

“傷み”

大人になってからの旅路は
幼い頃に奪われたものを
いつも取り返そうとしている

 

あの人もこの人も
どこかに埋めてしまった悔しさを
いまはもう思い出せないでいる

 

「ごめんな」と言われたい


「ごめんな」ではゆるせない

 

大人時代の3年間の経験は
二歳児が3分間でするという

 

取り出したかった刃物を
無理に内ポケットにしまいこんだ


先端が体の動きをいまだに制限している

 

 


童話の中のライオンが
街の中で暴れていた


人々はそれを始末しろと駆り立てる

 

ひとりの少女は気付いていた

足の裏に刺さった薔薇のトゲに

 

保安官の向けた銃口は照準を合わせた


引き金には指がかかっている


理由さえあれば撃ってみたい男だ

 

少女はそれを制止するように
まるでゴールキーパーのポーズで
ライオンの前に立った

 

正義は勝つ
が勝利は真理の中で存在している


いまだかつて邪は正に勝たず
が邪は存在することをいまだにやめない

 

あのとき埋めてしまった悔しさが
あのとき隠してしまった刃物の痛みが
いまでもあいつを傷付けている

 

あの銃口の本当の意味は
自分に向け続けた傷みであることを


あいつはまだ知らないでいる

“寝顔”

"寝顔"

朝の先っぽで目が醒める
いま僕は睡眠の波間にいる

雨の音に気付いてしまった
部屋で聴く雨音は どんなBGMより心地がいい

もう一度ベッドに倒れることもできたが
カーテンを開けるほうを選んだ

街の寝顔を見渡してみる
コントラストを失った家々
黙りこくった道路を見たら
取り残された気持ちになった

ベッドに戻ると幼い子の寝顔があった
父や母も僕の寝顔に微笑んだのだろうか

 

 

 

 

“ファッション”

“ファッション”

 

どうやら言葉がダイエットを始めたんだ
言葉のぜい肉がそぎ落とされて
歩きやすくなってきた 

青年の頃のベルトをどこにしまっただろうか
あのチノパンをとっておけばよかった
この革靴くらいは許されるだろうか

時間は流行を連れてくる
流行は眩しい時があって
見つめるにはサングラスが必要だ 

腕時計が止まってしまった
僕は求めるいっぽうで
修理の仕方を学んでなかったんだ

どの道が正しいのかって
道の先端で咲いた草花のファッションが
僕の好みかどうかなんだ

あの頃ふと手にした
ポロシャツの正しさのように

 

”6月の太陽”

6月の太陽

追い抜きたい時 見上げてはいけない

埃の中を駆けていくこと

好機を待たないこと

そうすれば逆転は必ずある

 

偶数で整えたいことが

奇数のように割り切れない

 

そんな余りを握りしめ

「これでどうだ」と胸を張った

6月の太陽になりたい

“その女の子は泣いていた”

泣きながらサッカーしてる女の子がいた
無表情で戦う女子チーム
ベンチには指示を出し続ける2人の指導者
保護者も一緒になってしまって
2.1chスピーカーみたいだ

試合なんだから勝利は目指すもの
だけどその喜びのために
大事なことをそぎ落としてきたら…

脱げないシャツのように
運営って単語が張り付いているのか
彼らがされてきた教育のドミノか

育成年代の指導って
買ったばかりの風船を
吹き込む前にほぐすようなこと

あなたがほしいものを
どうか誰かに押しつけないで
あの子たちにはきっと
いまのあなたは熱すぎる

はじめての旅だったなら
寄り道したから真ん中が分かる
その街が好きになる

そんなふうに
サッカーを好きでいてほしい

"家族"

"家族"

 

ほこりっぽい服で家に着くと
「おかえりなしゃい」の言葉が
泡になって飛んできて
僕の顔をはじいてくれる

 

春の花畑に 菜の花が咲くように
僕の家には 待ってる人がいる

 

積み木みたいに崩したい昨日と
レゴブロックのように残したい今日

 

そういえば季節は春だった

3月には「ありがとう」がよく似合う