"メダル"

"メダル"

掴まなければならない者
掴んでみたい者

手にした人によって
輝きを変えるメダル

地平線で分かれた空と海のように
どこまでも交わらない

空と海は同じクレヨンだけど
まったく別の意味がある

景色の中に区別の中で
重なり合っている

手にしたい幸せのように
求めては逃げていく
掌の中で変わってしまう

あの人もこの人も追いかけている
輝きはどこかと慌てている
きっといつかと求めていく

同じ窓から
星空を眺める人がいる
地面を見つめる人がいる

窓に映るあいつは
こっちを見ていて何を思うのか

 

"8月4日の午後の決断"

"8月4日の午後の決断"


僕は普通でありたいようで

特別でもありたい

 

思春期のあいつの影には引力があって

自転している少年たちを

どうして近くに引き寄せたのか

 

混ざり合う想いをひとつにする

それを型抜きにして

焼いたクッキーを食べてみたい

 

体は退行していくけど

心の進化は止まらない

戻っているようで進んでいる小舟に乗って

 

いつか空のように大きな愛で

大切なことを見渡してみたい

 

生まれ変わるそのまえに

大切なことを思い出したい

 

混ざり合う想いをひとつにする

それを型抜きにして

焼いたクッキーは格別だったはずだ

 

余計な荷物を捨てるところから

新しいことがはじまると知っている

 

 

 

そんなことを考えた熱暑の午後

どうして麦茶は氷を鳴らしたのか

 

少年が夕暮れに見た自分の影に向かって

蹴り飛ばしたソーダの空き缶のような

からんころんという音を立てて

"恐竜のバラード"

"恐竜のバラード"

 

ポーズをとる間もなく

ゴングがなった

拳を合わせる前に殴られた

 

面喰らったと言えば、その通りかな

僕はすぐにディフェンスの構えを取った

が、相手の姿は消えていた

 

トレーニングを積んで仕返すか

上手に忘れていくのがいいのか

解答例を探してる

 

まるで恐竜がバラードを唄ってるみたいだな

 

こんなに殴り返したいのに

殴り返されるのがとても怖い

 

パトカーの横でぎこちない動きの僕は
いつもなにかを気にしている

歴史を学んで盾を大きいものに持ち変えた

すべての誤りはそこだった


そろそろ僕を生きてみようか

過去と未来の僕をつなぐ

僕だけを生きてみようか

"僕と僕"

"僕と僕"

 

僕はとケンカばかりしている

 

時々勝つこともあるが

だいたいは打ち負かされている

 

勝ったときは大抵自分の力ではない

闘うしかなかったときにだけ
誰かの後押しがあった

 

 

僕は僕を尊敬できるようになりたい

 

「がんばれ」ではなくて「がんばってるね」と言われたい

 

立ち止まってても肯定してくれないか

また走り出すまでゆっくり眺めていてほしい

 

僕は命を未来へ運んでいる

過去からつづくコンベアを動かしている

 

君がいると走れそうだ
みんなと違う僕を見てる

 

僕は僕に勝てるようになりたい
いつか叶うその時も

 

君はやっぱり眺めてるはずだ

"朝の太陽"

僕がにぎりしめたハンドルは

もうしばらく離したことがない

 

乗客は大勢だ

いろんな景色を見てきたし

竜が飛び出しそうな嵐も経験してきた

 

これだけ大勢なのだから ハンドルではなく

舵と呼んだほうが正しいだろうか

 

はじめはよかったんだ

ボートにはペースが存在していた

 

各自の食糧も充分に積んでいたし

ときどき浅瀬に碇を降ろして

クロールして楽しんだものさ

カクレクマノミを捕まえたこともあったね

 

 

けど

いまは違う

 

ある人は朝食が口に合わないと言い

 

 

ある人は船酔いをしたと言う

 

 

ある人は途中で降りたいと訴える

 

そんなはずはないんだ

僕らの理想のクルーズは

この航海そのものだったんだはずなんだ

 

速度はね

風を受けながらだから

正確なことはお伝えできない

 

ひとりのために

スピードを上げることもない

 

だからと言って

黙って目的地まで乗ってくれとは言わない

 

この限りある時間と空間の中で

チェスやバーを存分に楽しんでほしいんだ

気の合う仲間を呼びかけ合って

 

 

ある客は声を荒げて

コンパスや航海図を見せろと言うが

 

はじめて目にした荒波やうねりに

不安をおぼえてしまったに違いない

 

だって僕らは、はじめからね

ずっと朝の太陽を向いていて

ハンドルをにぎりしめているのだから

“傷み”

大人になってからの旅路は
幼い頃に奪われたものを
いつも取り返そうとしている

 

あの人もこの人も
どこかに埋めてしまった悔しさを
いまはもう思い出せないでいる

 

「ごめんな」と言われたい


「ごめんな」ではゆるせない

 

大人時代の3年間の経験は
二歳児が3分間でするという

 

取り出したかった刃物を
無理に内ポケットにしまいこんだ


先端が体の動きをいまだに制限している

 

 


童話の中のライオンが
街の中で暴れていた


人々はそれを始末しろと駆り立てる

 

ひとりの少女は気付いていた

足の裏に刺さった薔薇のトゲに

 

保安官の向けた銃口は照準を合わせた


引き金には指がかかっている


理由さえあれば撃ってみたい男だ

 

少女はそれを制止するように
まるでゴールキーパーのポーズで
ライオンの前に立った

 

正義は勝つ
が勝利は真理の中で存在している


いまだかつて邪は正に勝たず
が邪は存在することをいまだにやめない

 

あのとき埋めてしまった悔しさが
あのとき隠してしまった刃物の痛みが
いまでもあいつを傷付けている

 

あの銃口の本当の意味は
自分に向け続けた傷みであることを


あいつはまだ知らないでいる

“寝顔”

"寝顔"

朝の先っぽで目が醒める
いま僕は睡眠の波間にいる

雨の音に気付いてしまった
部屋で聴く雨音は どんなBGMより心地がいい

もう一度ベッドに倒れることもできたが
カーテンを開けるほうを選んだ

街の寝顔を見渡してみる
コントラストを失った家々
黙りこくった道路を見たら
取り残された気持ちになった

ベッドに戻ると幼い子の寝顔があった
父や母も僕の寝顔に微笑んだのだろうか